未来の価値 第49話 |
誰かに相談することも無く、ましてや本人に確認することも無く、彼女は報道陣の前で宣言してしまった。世界唯一の第7世代ナイトメアフレーム、そのパイロットである名誉ブリタニア人枢木スザクが、自分の騎士なのだと。 騎士候補ではなく、騎士なのだと。 普通であれば、騎士の誓いは主従共に了承したうえで行われるものだ。 この発表は、スザクがユーフェミアの手を取った事を意味し、だからこそ、スザクの裏切りに腹を立てていたのだ。 騎士は二君を持たない。 ルルーシュの騎士とユーフェミアの騎士は兼任できない。 スザクは皇族の騎士になりたいと望んでいただけで、ルルーシュでなくてもよかったのだと、そしてユーフェミアが了承したから、さっさとその騎士に収まったのだと、誰もが思っているのだ。 この政庁内では特に、スザクの好青年ぶりを見てきただけあり余計にその気持ちが強かった。それが、お前の望みだったのか。そのような手段で手に入れた専任騎士という地位にどんな価値があるのだ。 イレブンに騎士道など理解できないにしても、これは酷過ぎる。 だからこそ、クロヴィスも腹を立てていたのだ。 ルルーシュの騎士に相応しい好青年だと思っていたのに、ここまで腹黒い男だったのか、私たちはまんまと騙されたのだと。 「ち、違います!そんな話、僕は全然聞いていません!僕は、ルルーシュの騎士になりたくて!なのになんで!?」 違う、知らない、何なんだこれは。 完全に取り乱し叫ぶスザクの姿を見て、これで確定したなとクロヴィスはこめかみを押さえた。先ほどの否定でまさかとは思ったが、ユーフェミアはスザクに何も話していなかったのだ。 ユーフェミアから「私の騎士になる気はありませんか?」という話も、スザクから「ユーフェミア様の騎士にしていただけませんか」という話も無く、言葉をかわさなくても二人が暗黙のうちに了承をしているような関係でもなかった。 本当に一方的に宣言されていたのだ。 コーネリアの越権行為もそうだが、この騎士宣言も普通ではあり得ない事で、「何を考えているのだ!」とクロヴィスは机をたたいた。 「姉上も、ユーフェミアも、なぜこうも勝手に事を起こす!」 幸いというべきか、今回の件で藤堂は黒の騎士団の手に落ちた。 その結果、コーネリアが行おうとした踏み絵は回避できたが、それは奇跡的なタイミングで黒の騎士団が動いた結果であって、それがなければ今頃はどうなっていたか。 だが、その代償というべきか、今度は妹が勝手な主従関係を公表してしまった。 一難去ってまた一難というが、あまりの不運にスザクは何か悪い 物に取り憑かれているのではないか?と心配してしまう。 「それで、どうなるんですかコレ」 この場の空気を解っているのかいないのか、ロイドはスザクの所属を明確にしてほしいとめんどくさそうな声で訴えてきた。今はシュナイゼルの直属だが、スザクに関して言えば実質ルルーシュの直属のような物だった。正式な発表はされていないし、ルルーシュは否定し続けているが、ルルーシュの騎士と言ってもおかしくない立場にいたというのに、ユーフェミアが割って入ってきてしまった。 ロイドとしても、これは面白くはない。 ルルーシュは話の解る上司だ。 シュナイゼルなど比べ物にならないぐらいロイドとも気が合う。 KMFに関する話など、出来れば毎日したいぐらいの相手だ。 だが、ユーフェミアはそれとは違う。 完全に論外だ。 KMFの基本操縦を学んでいる程度で、そこから先の話になると全く話にならなかった。その上、このような勝手な行動を平然とするのだから、部下となったら最後どんなトラブルに巻き込まれるか解ったものではない。 だからロイドがどちらを上司として望むかと聞くまでも無い。 「さあな、どうするべきか私にも解らないのだよ」 頭を抱えたクロヴィスが絞り出すように言った言葉。 それが、正直な回答だった。 「あの、このユーフェミア様の発言は、この場だけのものではないんですか?」 ここにいる者しか知らないのであれば、まだどうにかなるのでは。 そう思ったが、クロヴィスは首を横に振った。 「私がこの件を知ったのは、報道をみてからだ」 「報道・・・?」 「ユーフェミアの騎士が決定したと、メディアに流されたのだよ。ユーフェミアが、それを許可してしまった」 この内容を、今日のニュースで使ってもいいのかという質問に、ダールトンが止める間もなくユーフェミアは「もちろん構いません」と了承したのだ。皇女が了承してしまった以上、ダールトンにそれを否定する事はできなかった。 データは即座に各局に送られ、緊急速報としてテレビに流れた。 だからもう、もみ消せる話ではないのだ。 「あ、あの、ルルーシュは!?あ、えと、ルルーシュ殿下は何とおっしゃっているんですか!?」 「・・・スザクがユーフェミアの騎士となるなら、仕方がないと。自分の騎士よりはずっといいだろうといっていたよ」 深い深いため息を吐きながら、クロヴィスは苦しそうな表情でそう告げた。 |